朝5時過ぎ。
私たちは、二人ともすでに目を覚ましていました。
カーテンの向こうは、まだ真っ暗です。
前日の朝は、旅行への緊張からほとんど眠れないまま一日が始まりました。
高山駅から陣屋まで歩いて、たくさん見学して、たくさん食べて、下呂まで移動。
夜には、まさかの「私の足が立たない事件」まで発生しました。
それでも温泉に入り、マッサージをして、旦那とラウンジで奇跡の再会。
一日目を無事に終えた私たちは、ちゃんと眠って、ちゃんと二人で朝を迎えることができました。
※この記事は、高山・下呂1泊2日旅行記・全6話の第6話・最終話です。
下呂の日の出は何時?
外はまだ暗いけれど、せっかく山の上にあるホテルへ泊まっているのだから、朝日を見てみたい。
そう思った私は、スマホで「下呂 日の出」と検索しました。
表示された時刻は、午前6時ごろ。
部屋の窓の端からなら、山の向こうから昇る朝日を撮れるかもしれません。
旦那はまだ、ベッドの中で眠そうにウダウダしています。
私はカメラを構え、朝日が現れるのを待つことにしました。
ところが——。
6時になっても、まだ暗い。
真っ暗というほどではありません。
反対側に見える飛騨川の向こうの山並みは、少しずつ明るくなり、緑も見え始めています。
それなのに、待っている方向からは太陽が出てきません。
山に囲まれた下呂では、日の出時刻になっても、太陽が山の陰に隠れているようです。
寒いベランダで朝日を待つ
午前6時30分。
空はずいぶん明るくなりました。

「そろそろ来るんじゃない?」
そんな気配だけは、どんどん強くなってきます。
でも、ベランダは寒い!
部屋へ入ったり、また外へ出たり。

もう少し。今度こそ。
そう思いながら粘り続けました。
そして——。
ついに山の向こうから、まぶしい光が顔を出しました。

「きたぁぁぁあああああ!」
時計を見ると、午前6時45分。
ホテルの建物や山の位置まで考えれば、検索で表示された日の出時刻と、実際に部屋から太陽が見える時刻には差があるんですね。
寒い中で待った分だけ、山から現れた朝日は特別にきれいに見えました。

満足して部屋へ戻り、まだベッドから出てこない旦那に撮った写真を見せます。
「見て! やっと撮れた!」
旦那の反応は——。
「ほぅ」
……頑張って粘ったのに、それだけかい!
朝風呂は無理をしないことに
朝食は遅めの午前9時から。
まだ時間には余裕があります。
身支度をして、食後に慌てなくて済むよう、先に荷物をまとめました。
部屋もある程度片づけて、あとは朝食を食べたら出発できる状態にしておきます。
夜と朝では男女のお風呂が入れ替わるため、朝の露天風呂からなら日の出が見えたのかもしれません。
でも、朝風呂は諦めることにしました。
温泉に入って体がだるくなり、歩けなくなってしまったら大変です。
前日は旦那も私も、想像していた以上によく歩きました。
せっかくここまで無事に来られたのだから、最後まで無理はしない。
日曜朝の報道番組を見ながら、部屋でのんびり過ごしました。
朝食ビュッフェで大人気のオムレツへ

午前9時、朝食会場へ。
テーブルへ案内された私たちは、それぞれ料理を取りに向かいました。
サラダ、ハッシュポテト、ほうれん草のバター炒め、ひじき、お粥、塩辛、コーンスープ、味噌汁。
そして、目の前で作ってもらえるオムレツ。
鉄板の上で卵をクシュクシュッと混ぜ、形を寄せて、クルッと回して、お皿へヒョイ。
仕上げはトリュフソースとチーズです。
見ているだけでもおいしそう。
ところが、ここで私はビュッフェあるあるの失敗をしました。
午前9時のグループが一斉に会場へ入ったため、人気のオムレツには長い列ができていました。
その列を見た私は、つられるように並んでしまったのです。
本当なら、先に空いている料理を取る。
皆が食べ始めてオムレツの列が短くなってから、出来たての温かいものを受け取る。
その方が、ずっと効率がよかったはずです。
一方、旦那はというと——。
オムレツの列の2~3番目にいました。
私を置いて、早いこと早いこと。
食べることが第一の旦那。
おそらく旅行前にネットで朝食メニューを調べ、オムレツの存在まで把握していたのでしょう。
海なし県民、お刺身をお椀いっぱいに
もちろん、朝食は一皿では終わりません。
夕食で少し物足りなく感じていたお刺身が、朝にはお皿いっぱいに盛られていました。
まぐろ、サーモン、甘エビ、いか。
皆さんはご飯の上に盛りつけ、海鮮丼にしていました。
でも、私の胃袋に白米を入れる隙間はありません。
お刺身をお椀にたっぷり入れ、海鮮醤油を回しかけて、そのままいただきました。
スプーンですくったお刺身を、口いっぱいに頬張る幸せ。
海なし県民にとって、お刺身を好きなだけ食べられる朝は、それだけでごちそうです。
そして、どれだけお腹がいっぱいでも、別腹はちゃんと存在します。
フルーツとカスピ海ヨーグルト、それから少しグラノーラを入れた牛乳。
カスピ海ヨーグルトには、いちごソースとブルーベリーソースが用意されていました。
でも私は、あえてそれらには手を出しません。
フレンチトーストの横に置かれていたメープルシロップを加えました。
これが、おいしい。
前日の夕食から始まったTAOYA下呂での食事を、ようやく心置きなく、
「ごちそうさまでした」
と終えることができました。
予定より早いシャトルバスで下呂駅へ
部屋へ戻ると、すでに荷物はほとんどまとまっています。
早めにチェックアウトを済ませ、予約したシャトルバスの時間までラウンジで過ごすつもりでした。
ところが、ホテルの前には一便早いシャトルバスが止まっています。
旦那がスタッフさんに、
「予約を変更しても大丈夫ですか?」
と確認してくれました。
快く変更してもらえたため、私たちはそのままバスへ乗り込みました。
少し早く下呂駅へ向かいます。
下呂駅でお土産選び
駅に着いて、まずは帰りの切符を購入しました。
周囲の観光客の様子を見て、帰りも自由席にすることに決定。
続いて、駅の向かいにあるお店でお土産を選びます。
購入したのは、
- 帰宅後に家族で食べる「鱒ずし」
- いつもお世話になっている方への「しらさぎ物語」
- 自宅用の「かえる饅頭」
しおりを作っている時から候補にしていた、カラフルできれいな「GERO琥珀」は、お店まで少し歩かなければなりません。
今回は無理をせず、諦めることにしました。
旅行前なら「せっかく来たのだから」と頑張っていたかもしれません。
でも、二人で無事に帰るところまでが今回の旅行です。
特急ひだに乗った豆しば「マメタ」
買い物を終え、下呂駅のベンチに座って列車を待っていました。
すると、隣の売店が気になります。
柱にぶら下がっていたのは、豆しばのマメタ。
いくつか種類がある中に、特急ひだに乗っているマメタがいました。
私たちは今、特急ひだで旅をしています。
これは、もう連れて帰るしかないでしょう。
旦那に、
「買っていい?」
と聞くと、
「どうぞ」
と一つ返事。

こうして予定になかった新しい旅の仲間が増えました。
高山の朝市で出会ったぶどう君に続いて、下呂駅ではマメタ。
計画どおりに動く旅も楽しいけれど、思いがけず出会ったものほど、旅の記憶に残るのかもしれません。
「Wait here?」なら分かった
列車の時間までは、改札の外にあるベンチで過ごしました。
高山陣屋では、聞こえてくる会話のほとんどが英語でした。
ところが下呂駅では、外国人観光客は数えるほどです。
聞こえてきた英語も、日本人に向けてゆっくり話している、分かりやすい言葉でした。
「Wait here?」
おっ、これは分かる。
「ここで待つの?」
英会話ができるとは言えないけれど、知っている言葉を実際の場面で聞き取れると、少しうれしくなります。
高山陣屋で覚えた「After you.」は、結局使えなかったけれど。
次の機会には、かっこよく言ってみたいものです。
帰りの特急ひだは、おやすみ時間
指定席を利用する方が多かったのか、自由席には簡単に座ることができました。
私たちは、列車の一番後ろの席へ。
帰りは二人とも、眠って帰るつもりでした。
でも、自由席では列車が動き始めると、車掌さんが切符の確認に来ます。
「早く来ないかなぁ」
それが終わるまでは、なんとなく落ち着いて眠れません。
しばらくすると車掌さんが来て、切符の確認も終了。
後ろに座席がないため、気兼ねなく背もたれを倒します。
「おやすみなさい」
熟睡とまではいかなかったけれど、目を覚ました時には少し頭がすっきりしていました。
帰りには名所案内がなかった
岐阜駅が近づいた頃、二人とも目を覚ましました。
窓の外に見えるのは、行きにも通った景色です。
そこで、ふと気づきました。
「帰りは、名所案内がないんだね」
日本ラインや国宝犬山城の辺りでは、二人とも起きていました。
行きの列車では、絶景ポイントが近づくと車内放送が流れ、見える方向まで案内してくれました。
心なしか列車の速度も、少しゆっくりになったように感じました。
でも帰りには、その案内がありません。
あの車内放送は、旅の始まりを盛り上げてくれる特別なものだったのでしょうか。
同じ線路を走っているのに、行きと帰りでは景色の見え方も、気持ちも違います。
本当の「ただいま」

岐阜駅に到着すると、息子はすでに迎えに来てくれていました。
見慣れた駅。
見慣れた風景。
そして、見慣れた顔。
TAOYA下呂の部屋へ入った時、前回と変わらない景色に思わず言った、
「ただいま」
あれは、懐かしい場所へ戻ってきた「ただいま」でした。
でも今度は、本当の「ただいま」です。
少し前まで、旦那は支えがなければ歩けない状態でした。
旅行へ行けるのか。
予約を取り消した方がいいのか。
何度も不安になりました。
それでも当日は、岐阜駅のホームを軽い足取りで歩き、高山駅から陣屋まで休まず進み、おいしい料理をほとんど食べ、私が立てなくなった時には支えてくれました。
私は私で、寒いベランダに立ち続け、朝日が出るまで粘りました。
予定どおりだったことも、予定外だったこともあります。
歩き疲れたこと。
外国人観光客の多さに驚いたこと。
朝市でぶどうを買ったこと。
タクシーの運転手さんに、見事に発掘現場だと思わされたこと。
ホテルの受付で、若いスタッフさんの手際のよさに感心したこと。
別々にラウンジのドリンクバーへ向かい、偶然出会ったこと。
一つ一つは小さな出来事です。
でも、それが全部つながって、私たちだけの旅になりました。
忘れられたぶどう君の結末

そうそう。
高山の朝市で買い、TAOYA下呂の冷蔵庫で一晩待ち続けたぶどう君。
夕食後も、お風呂上がりも、朝食後も、その存在を忘れられていました。
幸い、冷蔵庫から出すことだけは忘れませんでした。
結局、旅行中に食べられることはなく、息子へのお土産になりました。
鱒ずしと一緒に家族でいただいたぶどう君は、甘くておいしかったです。
旅の途中で忘れられ、冷蔵庫の中で不安な夜を過ごしたぶどう君。
最後にはちゃんと家族のお腹へ入り、その役目を果たしました。
……もしかすると、この旅行で一番長い物語を持って帰ってきたのは、ぶどう君だったのかもしれません。
二人で行って、二人で帰ってきた
体調が万全だから行けた旅行ではありません。
不安がなくなったから出発できたわけでもありません。
列車の切符も、旦那の体調を見ながら直前まで待ちました。
歩く速度も、休む場所も、食べる時間も。
無理をせず、その時の二人に合わせて決めました。
旅行へ行く前に思い描いていたとおりにならなかったこともあります。
でも、予定どおりでなかったからこそ生まれた思い出も、たくさんありました。
行ってみなければ分からなかった景色。
食べてみなければ分からなかった味。
話しかけてみなければ聞けなかった言葉。
そして、一緒に行かなければ起こらなかった、小さな奇跡。
二人で出発して、二人で楽しんで、二人で無事に帰ってきた。
それだけで、今回の旅は大成功です。
こうして、私たちの高山・下呂一泊二日の旅は終わりました。
ただいま。
そして——。
次は、どこへ行こうか。
……と、旅の余韻に浸る間もなく、旦那が言い出しました。
「次は息子も一緒に、福井へ蟹を食べに行く」
どうやら、私たちの旅はまだ終わらないようです。
いや、その前に。
今回の旅行記を完成させてくれ~!ww


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