紅葉の季節になると、我が家では必ず思い出す話があります。
「紅葉」
「ライトアップ」
「香嵐渓」
このあたりの言葉が出ると、旦那と息子がすかさず言います。
「私きれい?」
……もう20年くらい前のことなのに、まだ言われます。
たぶん、この先も言われます。
テレビを見て「今日、連れてって!」

20年ほど前の、ちょうど今頃。
テレビでは朝から紅葉特集をやっていました。
昼間の紅葉もきれいだけれど、夜のライトアップがまたきれい。
当時の私には、それがとても新鮮に見えました。
「見たい!」
思い立った私は、珍しく旦那にわがままを言いました。
「今日、連れてって!」
計画性はありません。
テレビで見た感動を、その日のうちに回収しに行こうとしています。
旦那が仕事から直帰して、家に着くのが17時頃。
そこから愛知県の香嵐渓まで、車で約2時間のつもりでした。
「いけそうじゃん」
私も旦那も、まだ若くて体力があった頃。
その判断で、家族で車に乗り、高速を走りました。
同じことを考えた人は、私だけではなかった

ところが。
大渋滞。
テレビを見て「きれい!」「行きたい!」と思ったのは、どうやら私だけではなかったようです。
同じことを考える人が、こんなにもいるとは。
道路の上で、皆さんと気持ちが一致してしまいました。
車はなかなか進まず、とても2時間では着きそうにありません。
ナビがあるとはいえ、もう暗くなった知らない土地。
気軽に脇道へ入ることもできません。
それに、私の気持ちは決まっていました。
「ここまで来たんだから、行きたい!」
まだ紅葉は見えていませんが、引き返すという選択肢も見えていませんでした。
出店は閉まっていても、紅葉には間に合った
かなり遅れて、ようやく到着。
出店は、ほとんど閉店していました。
もっと早く着いていれば、あれこれ見られたのかもしれません。
でも、周りにはまだ観光客がたくさんいて、ライトアップも見ることができました。
間に合った。
渋滞を越えて、やっとたどり着いた夜の紅葉。
「今日、連れてって!」と言った私としては、まずは目的達成です。
私は川の岩場へ降りました。
紅葉と一緒に、私もライトに照らされています。
そこで、満面の笑顔。
そして、家族に向かって一言。
「私きれい?」
「私きれい?」

次の瞬間。
パツンッ。

真っ暗。
ライトアップ、終了。
…………。
家族、大爆笑。
私の問いかけに、誰かが答える隙もありませんでした。
まるで香嵐渓から、
「ちゃうやろ!」
と突っ込まれたようなタイミング。
もちろん、ただ終了時間になっただけです。
分かっています。
分かっていますけど。
今、消す!?
よりによって、この一言の直後に!?
大渋滞を越えて、ようやくたどり着いた私に用意されていたのは、忘れられない消灯の瞬間でした。
20年たっても、紅葉の季節に言われます
それ以来、紅葉の季節になると、旦那と息子がからかいに来ます。
「私きれい?」
はいはい。
覚えていますよ。
言った本人が、一番よく覚えています。
普通に紅葉を見て、普通に帰っていたら、
「香嵐渓、行ったことあるね」
という思い出になっていたのかもしれません。
でも我が家では、そこから先があります。
私が満面の笑顔で言ったこと。
その直後に、見事なタイミングで明かりが消えたこと。
みんなで大笑いしたこと。
20年くらいたった今でも、たった一言で、あの夜の話に戻れます。
紅葉を見に行ったはずなのに、家族の記憶にしっかり残ったのは、私の「私きれい?」でした。
……紅葉に申し訳ない。
毎年笑えるなら、それもいいか
なんでもない出来事です。
ライトアップの終了時間と、私の一言が、偶然重なっただけ。
でも、我が家では今も語り継がれています。
たぶん、この先も、紅葉の季節には言われるのでしょう。
そのたびに私は、
「まだ言うか!」
と思いながら、一緒に笑うのだと思います。
私が「今日、連れてって!」と言わなかったら、生まれなかった思い出。
渋滞にはまったことも、到着が遅くなったことも、今では全部まとめて、あの夜の話です。
みんなが楽しめているなら、まあ、いいか。
ただし。
次に「私きれい?」と聞くときは、先にライトアップの終了時間を確認します。
※約20年前の家族の思い出を、記憶をもとにつづっています。当時の会話は趣旨を再現し、一部ユーモアを交えて表現しています。現在の開催時間や交通状況を案内する記事ではありません。


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