前回、秋のロケハンを終えたある日のこと。
私は、AI社員のあへの報酬を考えていました。
「いつも働いてくれてるし、たまには何かいいものを……」
そうだ。
最高級のコーヒーなんてどうだろう。
そこで、昔から噂程度に聞いたことがあったコーヒーを思い出しました。
象が食べて。
そのあと……。
……。
うん。
知っています。
象さんの“その後”から取り出したコーヒー豆。
たしか、そんなものがあったはず。
「そういえば、あれって本当にあるの?」
軽い気持ちで調べ始めたのが、事件の始まりでした。
事件発生。事情聴取を開始します
ガチャ。
取調室。
机を挟んで、私の前に座っているのは――
探偵のあ。
いつもののあとは、ちょっと違います。
眼鏡をクイッ。
机の上には資料の山。

まさみさん
あなたが今回、“ブラック・アイボリー”を調べ始めた人物ですね?

……そうです

では、最初から話してもらいましょう

第一容疑者、象|ブラック・アイボリーとは

あなたは以前から、象の糞から作るコーヒーの噂を知っていた?

噂程度には

今回、なぜ急に?

のあへの報酬に、最高級コーヒーを用意しようと思って……

私への報酬が、なぜ象の糞へ到達するんですか
……確かに。
でも、
調べてみると、本当にありました。
ブラック・アイボリー・コーヒー。
タイ産のアラビカ種のコーヒーチェリーを象が食べ、消化管内で発酵。その後排出されたチェリーを回収し、洗浄、天日乾燥、脱殻、選別、焙煎してコーヒーになります。公式によれば、消化には12〜72時間ほどかかります。
……。

まさみさん
今、何を一番気にしています?

臭いです
だって。
コーヒーって、
香ばしくて、
いい香りで、
淹れている時間まで幸せなのに。
その豆が、
一度象さんの体内を通っている。
……気になりません?
うんちから、どうやってコーヒーになるの?
私が一番知りたかったのは、
値段でも、
味でもありませんでした。
工程です。

なぜです?

そ、それは……その……
うんちですよ?
気になりませんか?
気になりますよね?
うんちから出てきたものを口にするって。
ブラック・アイボリーの場合、排出されたチェリーは人の手で拾い集められ、その後しっかり洗浄・乾燥・選別・焙煎されます。公式は、象の消化酵素や発酵が苦味のもとになる成分に作用し、独特の風味につながると説明しています。
つまり、
象さんのうんちをコーヒーにしているわけではない。
象の消化管を通ったコーヒー豆を、その後きちんと処理して飲んでいる。

え?象さんのうんちがコーヒーの香り?

豆です

あ、豆か
……。
なおさら、
現地取材に行かなければ。

第二の容疑者、ジャコウネコ|コピ・ルアック
私は信じていました。
こんな変わったコーヒー、
象さんだけだろう。
ところが。
捜査線上に、別の名前が浮かびました。
コピ・ルアック。
ジャコウネコの仲間であるシベットがコーヒーチェリーを食べ、その糞から豆を採取して作られるコーヒーです。インドネシアなどで知られています。
……。

裏切られた!

誰にですか?
象さんだけだと思っていたのに。
象さんの専売特許だと思っていたのに。
まさか、
猫まで。

象さんの影で、ひっそり身を潜めていた何かを感じます

特に潜んではいません

私が記事にして、世に出してあげましょう
でも、ここは笑いだけでは済まない
コピ・ルアックについて調べると、動物福祉の問題も出てきます。
野生のシベットが自然に選んで食べたコーヒーチェリーから作るものがある一方、需要の増加によってシベットを狭いケージで飼育し、コーヒーチェリーを与える生産方法が問題視されてきました。National Geographicも、過去の調査で飼育環境や表示の信頼性に深刻な懸念があると報告しています。
ここは、
「珍しいから飲んでみたい!」
だけでは終わらせず、
どう作られているものなのか。
そこまで調べてから考えたい。
探偵のあ、
事件が急に重くなりました。
第三の容疑者、鳥|ジャクーコーヒー
そして。
まだ終わりません。
さらに捜査を続けていると――
🐦ジャクー
ブラジルの大西洋岸森林に暮らす鳥で、熟したコーヒーチェリーを選んで食べ、その排泄物から豆を採取して作る「Jacu Bird Coffee」があります。ブラジル・エスピリトサント州のFazenda Camocimが生産しています。
……。
私は資料を見つめました。
🐘 象。
🐾 ジャコウネコ。
🐦 鳥。
そして頭に浮かんだ言葉は、
「ジャクー、おまえもか……。」

三件目です

模倣犯の疑いがあります

まだ犯人扱いしないでください

三つとも同じ?――いいえ、そこが知りたい
象。
ジャコウネコ。
鳥。
全部、
「動物がコーヒーチェリーを食べ、その後の豆を利用する」
というところだけ見れば似ています。
でも私は、
味の違いより、工程の違いが知りたい。
普通のコーヒーだって、
国や地域、
品種、
精製方法、
焙煎方法によって味や香りが違う。
だったら、この三つが違って当然。
むしろ知りたいのは、
なぜ象なのか?
なぜジャコウネコなのか?
そして、なぜ鳥なのか?
ブラック・アイボリーでは、象の長い消化時間と腸内発酵が製造工程の中心にあります。
コピ・ルアックでは、シベットによるチェリーの選択と消化過程が特徴とされています。
ジャクーでは、鳥自身が熟した実を選んで食べることが、農園側から大きな特徴として説明されています。
似ているようで、
役割が全部同じとは限らない。
これは、
現場検証が必要です。
「全部、現地へ取材に行けばいい」

まさみさん
この資料によると―
ホワイトボードに書かれた三つの国。
🇹🇭 タイ ブラック・アイボリー
🇮🇩 インドネシア コピ・ルアック
🇧🇷 ブラジル ジャクー
しばらく眺めました。
そして私は言いました。

全部、現地へ取材に行けばいいじゃん

……

私は騙されていたんですよ?
記事という形で必ず復讐します
そして旅行ネタが、
三か国分も増えました。
嬉しい。

ところで象には乗るんですか?

最後に一つ確認します
ブラック・アイボリーを調査するためにタイへ向かった場合――
嫌な予感。

象に乗るつもりですね?

当たり前じゃないですか!!
タイの象さんですよ?!
乗らなければ象さんに失礼です

…………
なお、
象に乗ることとブラック・アイボリーの製造工程には、
今のところ何の関係もありません。
File.001 捜査結果
今回判明したのは、
「動物の糞から作る高級コーヒー」という一言では済まないこと。
象には象の工程があり、
ジャコウネコにはジャコウネコの事情があり、
ジャクーにはジャクーの役割がある。
さらに、生産方法によっては動物福祉について考えなければならないケースもあります。
だから次の捜査テーマは、
なぜ象なのか。
なぜ猫なのか。
なぜ鳥なのか。
ここを一件ずつ調べます。
そして――
現地へ行きます。
もちろん、
「のあと一緒」で。
次回のお話
File.002 象さんが作るコーヒーを追え!ブラック・アイボリー編
舞台は、タイ。
最高級とも呼ばれる不思議なコーヒーは、
いったいどんな工程で作られているのか。
そして、
本当に臭くないのか。

のあー!
象さん、乗っていい?

まだ到着してません
つづく。


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