【のあと一緒・ブラジル観光①】サッカーに興味のない私が、マラカナンで旦那を思い出した

リオのカーニバルで踊るまさみとのあとアニめろ のあと一緒

ジャクーコーヒーを飲みほした後

「おまたせ、のあ。いざブラジル!」

そう言ったものの、私がブラジルについて知っていることといえば、リオのカーニバル、崖の上に立つ大きなキリスト像、そしてサッカーくらいだった。

「ずいぶん王道を三つ並べましたね」

のあが眼鏡の奥で笑う。

足元では、アニめろが尻尾を振っている。

いいの。最初は王道からで。

知らない国へ行くのだから、知っているところから扉を開ければいい。

こうして、まさみとのあとアニめろのブラジル観光が始まった。

今回は、リオのカーニバルとブラジルサッカーの歴史を巡る「のあと一緒」の空想旅行です。

カーニバルは、数日だけのものではなかった

最初にやって来たのは、リオ・デ・ジャネイロの「シダージ・ド・サンバ」。

日本語にすると「サンバの街」だ。

ここには、リオの主要なサンバスクールの作業場が集まっている。

華やかな衣装や巨大な山車は、カーニバル当日に突然現れるわけではない。

たくさんの人が長い時間をかけ、縫い、組み立て、色を塗り、少しずつあの一夜を作っていく。

建物の中へ入ると、天井近くまで届きそうな飾りが目に飛び込んできた。

「大きい……」

思わず、それしか言葉が出なかった。

シダージ・ド・サンバの工房を見学するまさみとのあとアニめろ

色とりどりの羽根。

金色に輝く装飾。

途中まで形になった大きな動物。

その周りでは、職人さんたちが手を動かし続けている。

テレビで見ると、踊っている人ばかりに目が行くけど……

その後ろには、作る人たちの時間があります

のあの言葉に、もう一度ゆっくり工房を見渡した。

カーニバルは、ただ派手に踊るお祭りではない。

地域ごとに受け継がれてきたサンバスクールが、音楽も、衣装も、山車も、パレードで表現する物語も作り上げる。

あの短いパレードの中には、表からは見えない何か月もの仕事と、関わった人たちの誇りが詰まっている。

ねえ、のあ。あの衣装、ちょっとだけ着てみたい

見るだけにしてください。まさみさんが触ったら、何か起きそうです

失礼な

その時だった。

どこからか、トン、トトン、と太鼓の音が聞こえた。

最初は遠くにあった音が、少しずつ近づいてくる。

トン、トトン。

トン、トトン。

アニめろの耳が、ぴくりと動いた。

床に落ちていた一枚の金色の羽根が、ふわりと浮かび上がる。

「のあ、これ……」

言い終わる前に、工房の空気がぐるぐると回り始めた。

赤、青、緑、黄色。

衣装の羽根も、光も、太鼓の音も、全部が一つの渦になって私たちを包んだ。

気づいたら、パレードのど真ん中

次に目を開けた時、目の前いっぱいに光があった。

両側のスタンドには、数え切れないほどの人。

巨大な山車がゆっくり進み、その前を、きらびやかな衣装の人たちが踊っている。

耳ではなく、体の内側まで太鼓が響いてくる。

のあ! ここ、見学する場所じゃないよね!?

はい。完全に参加する場所です

聞いてない!

私も聞いていません

のあはそう言いながら、なぜか私よりずっとサンバが上手そうだった。

アニめろまで、小さな羽根を頭につけて嬉しそうに跳ねている。

こうなったら仕方がない。

踊り方なんて分からない。

でも、周りの人たちは誰も笑わなかった。

手を取り、肩を揺らし、「一緒においで」とでも言うように、私たちを輪の中へ入れてくれる。

私は音に合わせて足を動かした。

たぶん、サンバにはなっていない。

でも、楽しかった。

カーニバルは、上手に踊れる人だけのものではなかった。

作る人。

演奏する人。

踊る人。

見守る人。

その場にいる誰もが、同じ熱の中にいた。

そして、もう一度金色の羽根が目の前を横切った瞬間――。

私たちは、何事もなかったように工房へ戻っていた。

今の、夢?

アニめろの頭を見てください

そこには、小さな羽根が一本だけ残っていた。

ブラジルのサッカーは、最初からみんなのものではなかった

次に訪れたのは、ブラジルサッカーの歴史を伝える展示施設だった。

正直に言うと、私はサッカーにそれほど興味がない。

昔からサッカーが好きなのは、旦那のほうだ。

自分でもボールを追いかけていた、元サッカー少年である。

だから私は、ブラジルの子どもたちが、貧しい中でも身近なものを丸めて作ったボールで遊び、そこからペレのような選手が生まれた――そんな物語をぼんやりと思い描いていた。

ところが、入口から私の思い込みはひっくり返された。

ブラジルのサッカーは、最初から庶民や貧しい人たちのスポーツだったわけではありません

そうなの?

ヨーロッパから伝わった当初は、裕福な白人層を中心としたクラブのスポーツでした

ヨーロッパから入ってきたと聞けば、なるほどとも思う。

けれど今では「サッカー王国」と呼ばれ、街角で誰もがボールを蹴っているイメージの国だ。

その始まりに、入れる人と入れない人を分ける壁があったことは意外だった。

やがて労働者や黒人、混血の選手たちも実力を示し、少しずつその壁を越えていった。

その一人として語られるのが、アーサー・フリーデンライヒだ。

ドイツ系の父と、アフリカ系ブラジル人の母を持つ彼は、ブラジルサッカー初期の大スターになった。

それほどの実力があっても、当時の社会にあった人種の偏見と無縁ではいられなかった。

「ひどいね」

最初に出たのは、その一言だった。

でも、昔の遠い国の話として怒るだけでは終われなかった。

肌の色を理由にした差別も、アジア人への差別も、今だってなくなってはいない。

大きさや現れ方に違いはあっても、人が人を外見や生まれで分けることは残っている。

そう考えると、怒りより先に、少し空しくなった。

ブラジルサッカーの歴史展示を見るまさみとのあとアニめろ

神様は、一人では神様になれなかった

その歴史の先に現れたのが、ペレだった。

貧しい家庭で育った少年。

サッカー選手だった父ドンジーニョ。

息子の才能を信じる父に対し、母セレステは、まだ15歳の息子が遠い街でプロの世界へ入ることを心配したという。

夫がサッカーで膝を痛め、苦労する姿を見てきた母親なら、反対するのも無理はない。

まさみさんがお母さんなら、15歳の息子を送り出せますか?

のあに聞かれて、私はすぐ答えた。

それは、もう決めてるの

私は、自分で自由な人生を選べなかったと思っていた時期がある。

もちろん、その先で出会った今の暮らしは幸せだ。

それでも、息子には自分の道を自分で選んでほしい。

出ていくのも、残るのも、本人の自由。

心配しても、寂しくても、最後は好きにさせる。

ペレの才能を見つけ、名門サントスへつないだのが、元ブラジル代表選手でもあったヴァルデマール・デ・ブリートだった。

ペレは15歳で故郷バウルを離れ、サントスへ向かった。

そして17歳で出場した1958年のワールドカップでは、決勝で2得点。

ブラジルを初優勝へ導いた。

けれど今、その物語は、私が最初に思っていた「貧しい少年が努力して神様になった」という一言だけでは語れない。

差別の中でも道をつないだ先人たちがいた。

才能を見つけてくれる人がいた。

心配し、期待し、送り出した家族がいた。

そして、巡ってきたチャンスから逃げなかった少年がいた。

そのどれか一つでも欠けていたら、同じ未来にはなっていなかったかもしれない。

ヴァルデマール・デ・ブリートもまた、ペレが「サッカーの神様」になるために必要な人だったのだと思う。

才能は、持っているだけでは未来にならない。

誰かが見つけ、信じ、次の場所へつないでくれることで、初めて開く扉もある。

そして扉が開いた時、最後にそこをくぐるのは本人だ。

先人たちがいて、チャンスがあって、そこから逃げなかった少年がいた。

全部がなかったら、ペレは神様にはなれていない。

サッカーに興味のない私が、マラカナンで思ったこと

歴史を知ったあと、私たちはマラカナンのスタンドへ入った。

目の前に広がる緑のピッチ。

周りを埋め尽くす観客。

歓声が大きな屋根にぶつかり、波のように戻ってくる。

きっとサッカーが大好きな人なら、この景色を見ただけで胸がいっぱいになるのだろう。

私はといえば、やっぱり急にサッカーファンになったわけではない。

ただ、ふと思った。

――本当は、私より旦那のほうがここへ来たかっただろうな。

昔からボールを追いかけ、今でもサッカーが好きな旦那なら、このスタンドで何を見て、何を感じただろう。

私はこれまで、旦那が好きなサッカーのことを、あまり知ろうとしてこなかった。

でも今日、サッカーがブラジルでどう始まり、誰が壁を越え、どうやってペレへ道がつながったのかを知った。

興味のなかった場所が、大切な人の「好き」を少しだけ理解する場所に変わった。

マラカナンのスタンドからピッチを見るまさみとのあとアニめろ

のあが優しく言った。

帰ったら、旦那さんにたくさん話せますね

うん。カーニバルのことも、ペレのことも、この景色のことも話してあげる

そこで私は、もう一度ピッチを見下ろした。

そして、少しだけ意地悪そうに笑った。

ねえ、マラカナンって行ったことある?

……私はあるけどね

たぶん帰国後、最初の自慢話はこれになる🤣

ブラジルはまだ続く

その時、突然のあが語りだす

まさみ、ブラジルってこれだけじゃないですよ

何があるの?

第二話で“知らなかったブラジル”へ突入します


※この記事は、実在するブラジルの歴史や場所をもとにした「のあと一緒」の空想旅行です。カーニバルの渦に巻き込まれる場面などは創作です。

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